夜の介護現場で起きる落ち着かなさに対して、できることは「何かを変える」よりも「環境を整える」ことだった——これが今回の結論です。
人の状態を直接どうにかしようとすると、介護はどうしても難しくなります。一方で、音や空気感といった周囲の環境に目を向けると、現場全体の雰囲気が静かに変わる瞬間があります。
この記事では、アイリッシュハープの生演奏を取り入れた体験をもとに、夜の時間帯に感じやすい不安や落ち着かなさと「環境づくり」の関係について整理します。医療や治療の話ではなく、あくまで現場で感じた気づきを共有する内容です。
介護に正解はありませんが、視点を少し変えることで、関わり方がやわらぐ可能性はあります。
夜の介護現場で感じやすい「落ち着かなさ」と環境の関係

夜になると、介護現場の空気は昼間とは大きく変わります。人の動きが減り、音も少なくなる一方で、利用者の不安やそわそわした様子が目立ちやすくなる時間帯です。
この落ち着かなさは、本人の内面だけでなく、周囲の環境によって強まっているように感じる場面が多くあります。照明の明るさ、物音の少なさ、話し声のトーンなど、夜特有の条件が重なることで、空間全体が緊張しやすくなるのです。
そこで重要になるのが、「何かをさせる」よりも「どういう空気をつくっているか」という視点です。環境を整えることは、直接的な対応ではありませんが、結果としてその場にいる人すべてに影響を与えます。
夜は情報が減り、不安が目立ちやすい
視覚や聴覚から入る情報が少なくなると、人は些細な刺激にも敏感になります。昼間であれば気にならない物音や気配も、夜になると意識に入りやすくなり、落ち着かなさにつながることがあります。
夜の静けさは安心感を与える一方で、周囲の状況を把握しにくくなるため、不安を強める要因にもなり得ます。このような状態では、本人の内面だけでなく、空間そのものが影響している可能性を考える視点が重要になります。
環境は「無意識」に作用する
音や光は、意識していなくても人の感覚に影響します。特に夜の時間帯は刺激が少ない分、環境から受け取る印象が強まりやすくなります。環境づくりは、声かけや指示のように直接働きかけるものではありませんが、本人に負担をかけずに空間全体へ作用する点が特徴です。
無理なく整えられた環境は、その場にいる人の緊張をやわらげる下地になります。
介護者側の動きも空気を左右する
慌ただしさや緊張感は、言葉にしなくても周囲に伝わります。歩く速さや声のトーン、ちょっとした動作の切り替えなど、介護者の振る舞いは空間の雰囲気に影響を与えています。
環境を整える視点を持つことで、自分自身の動きや関わり方を振り返るきっかけにもなり、結果として場全体の空気を落ち着かせることにつながります。
音が加わったことで、空間に起きた変化として感じたこと

アイリッシュハープの生演奏が始まったとき、まず感じたのは「音楽を聴いている」というより「空間が変わった」という感覚でした。音量は控えめで、主張するような響きではありません。
それでも、場の雰囲気がゆっくりと落ち着いていく様子が見られました。話し声が自然と小さくなり、表情がやわらぐ人が増えるなど、細かな変化が重なっていきます。重要なのは、これを効果として断定するのではなく、「その場でそう見えた」という事実として捉えることです。
音は何かを変える道具というより、空気を整えるきっかけとして機能しているように感じました。
生演奏ならではの安心感
スピーカーから流れる音と違い、演奏者がその場にいることで、人の気配が自然に加わります。音そのものだけでなく、「誰かがここで音を奏でている」という状況が、空間にやわらかさをもたらしているように感じられました。
視線を向けなくても、演奏者の存在が伝わることで、場に安心感が広がっていくような印象があります。この人の存在感は、無意識のうちに緊張をほどく要素の一つになっているのかもしれません。
静かさを壊さない音の存在
無音ではなく、やさしい音が流れていることで、静けさが張りつめたものにならず、余白のある空間になります。完全な静寂は、ときに落ち着かなさを強めることがありますが、控えめな音があることで、空間にゆるやかな揺らぎが生まれます。
その揺らぎが、安心してその場に身を置ける感覚につながっているように思えました。
音が中心ではなく背景になる
主役は音楽そのものではなく、その場で流れている時間です。音が前に出すぎないことで、注意を引きつけすぎず、自然な流れが保たれます。
音は何かを主張する存在ではなく、背景としてそっと支える役割に徹することで、空間全体の調和を整えているように感じられました。
結果を決めつけないために意識した「観察の視点」

この取り組みを振り返る際、特に意識したのは結果を決めつけない姿勢でした。介護の現場では、「良かった」「悪かった」と結論を急ぎがちですが、それでは見落とされることも多くあります。
そこで、演奏中やその前後に見られた様子を、そのまま記録し共有することを大切にしました。表情や姿勢、場の静けさなど、数値化できない部分こそが、環境づくりのヒントになると感じたからです。
主観的な気づきを否定しない
感じたことは個人差がありますが、それ自体が無意味になるわけではありません。介護の現場では、数値や明確な変化だけが注目されがちですが、人の表情や空気感といった主観的な要素も、重要な情報の一部です。
一人ひとりの感じ方にはばらつきがあるからこそ、複数の視点を重ねていくことで、その場の全体像が少しずつ立ち上がってきます。
主観的な気づきを排除するのではなく、「そう感じた背景は何だったのか」と考えることが、環境づくりを深める手がかりになります。
言い切らない表現を選ぶ
「そう見えた」「そう感じられた」「そのように受け取れた」といった表現は、現場で起きていることを無理に結論づけず、共有するために役立ちます。断定を避けた言い回しは、読み手や聞き手に余白を残し、それぞれの経験と照らし合わせながら受け取ってもらうことができます。
介護の記録や振り返りにおいても、この姿勢は安心して意見を出し合える土台になります。
共有することで視点が増える
一人の感想だけでは、どうしても見える範囲が限られてしまいます。しかし、チームで気づきを共有することで、「自分は気づかなかった点」や「別の捉え方」が浮かび上がってきます。
複数の視点が集まることで、判断の偏りが和らぎ、環境を見直すヒントも増えていきます。共有は結論を出すためではなく、視野を広げるための大切なプロセスです。
在宅介護でも意識できる、音との距離感の考え方

施設だけでなく、在宅介護でも音との付き合い方は重要です。ここで大切なのは、音楽を「使う」ことではなく、「置く」感覚です。流し続ける必要はなく、短い時間でも構いません。
音量を抑え、生活音と混ざる程度にすることで、環境の一部として自然に存在します。音をどう感じているかは、本人の反応を見ながら調整する姿勢が欠かせません。
音量は控えめが基本
小さな音でも、静かな時間帯では十分に存在感があります。特に夜間は周囲の音が少ないため、わずかな音でも空間全体に行き渡ります。
大きな音で印象づける必要はなく、生活音に溶け込む程度の音量が、結果として落ち着いた雰囲気を保ちやすくなります。
時間を区切ることで負担を減らす
長時間流すより、区切りをつけた方が受け取りやすい場合があります。音が常に続いている状態よりも、「この時間だけ流れる」というメリハリがあることで、刺激としての負担を感じにくくなります。
短い時間でも、環境を切り替えるきっかけとして十分に役割を果たします。
表情やしぐさを手がかりにする
言葉よりも、非言語的な反応がヒントになることがあります。視線の向きや体の向き、呼吸のリズムなど、ささやかな変化を手がかりに、その音がその人にとってどう受け取られているのかを感じ取ることが大切です。
反応を見ながら調整する姿勢が、無理のない環境づくりにつながります。
音のある時間が、介護する側に与えた影響

音のある時間は、利用者だけでなく介護する側にも影響を与えていました。忙しさの中では、動作や声かけが無意識に速くなりがちですが、静かな音が流れていると、自然と動きがゆっくりになります。
結果として、場全体が落ち着いた雰囲気に包まれ、関わり方にも余裕が生まれます。これは音楽の力というより、環境が人の行動を整えている一例と言えるでしょう。
介護者自身の緊張に気づく
音のある時間は、自分の状態を振り返るきっかけにもなります。忙しさに追われていると、気づかないうちに肩に力が入り、呼吸が浅くなっていることがあります。
静かな音が流れることで、そうした無意識の緊張にふと気づき、「今、自分は少し急ぎすぎているかもしれない」と立ち止まる余白が生まれました。
場の空気を共有する感覚
同じ空間で同じ時間を過ごすことで、無言の連帯感が生まれます。会話を交わさなくても、音を介して同じリズムを共有している感覚があり、それが安心感につながっているように感じられました。
この共有された空気は、利用者と介護者の間だけでなく、スタッフ同士の関係にも穏やかな影響を与えていました。
環境づくりは自分を守る工夫でもある
整った環境は、利用者のためだけでなく、介護者自身の負担感を和らげる助けにもなります。常に気を張り続ける状態から一歩引き、落ち着いた空間の中で働くことは、心身の消耗を抑える一つの工夫になります。
環境を整えることは、結果的に自分を守る行為でもあると感じました。
介護で大切なのは「何をするか」より「どう整えるか」

今回の体験から得た最大の気づきは、介護において環境づくりが持つ意味の大きさです。直接的な対応だけでなく、音や空気感といった要素を整えることで、場の雰囲気は確実に変わります。
これは特別な方法ではなく、視点の置き方の問題です。何かを加える前に、今ある環境を見直すこと。その積み重ねが、夜の時間を少しだけ穏やかにしてくれるかもしれません。
本記事は一つの体験談にすぎませんが、現場や日常で環境を考えるきっかけになれば幸いです。
※本記事は医療行為や治療を目的としたものではなく、介護現場での体験や気づきを共有する内容です。
状態に不安がある場合は、専門職の判断を優先してください。
次回、リアル演奏会のお知らせ

- 日時:2026年2月12日(木)
- 開演:14:00(開場 13:30)
- 会場:豊川市小坂井文化会館(フロイデンホール)
- 主催:さわやか音楽会実行委員会・豊川市
- 入場料:500円
- 出演者:田中左京、畔柳美佐子

